エピソード
日光、大谷川の急流が岩を噛む景勝の淵。慈雲寺の境内に沿って約70体の地蔵が並び、「並び地蔵」と呼ばれているが、この地蔵には古くから奇妙な言い伝えがある。行きと帰りで数えると、地蔵の数が必ず合わない――。数えるたびに数が変わることから、いつしか「化け地蔵」と呼ばれるようになった。
語られる話は化け地蔵の伝承が中心で、実際に数えて数が合わなかった、地蔵の顔が変わって見えた、淵の轟音に混じって経を読む声が聞こえた、といったもの。地蔵は洪水で流失したものも多く、欠けたり首のないものが混ざって並ぶ姿が、夕暮れには確かに不気味な迫力を帯びる。急流の音が絶えない淵は、古くから修行の場でもあった。
現地は東照宮の喧騒から離れた静かな散策路で、紅葉の時期は特に美しい。試しに地蔵を数えながら歩いてみるのがこの場所の正しい楽しみ方だが、数が合わなくても、それは昔からそういう場所なのである。