エピソード
弘法大師空海が開いた真言密教の聖地、その最奥。一の橋から御廟まで約2キロの参道には、樹齢数百年の杉木立の下に20万基を超える墓碑や供養塔が並ぶ。戦国武将から企業の慰霊碑まで、日本中の死者がこの山に集まっており、大師が今も御廟で祈り続けているという「入定信仰」が千二百年守られてきた。日本最大の「死者の都」である。
夜の参道で人影を見た、読経が聞こえた、といった話は語られるが、ここでは誰もそれを怪異と呼ばない。毎朝大師に食事を運ぶ儀式が続き、死者と生者が同居することがこの山の日常だからである。参道には汗かき地蔵や姿見の井戸など、死生観にまつわる伝承の場所が点在する。
参拝は作法を守って。夜の参道を歩くナイトツアーも公式に行われており、案内僧とともに歩く闇の奥之院は、日本人の死生観の深みを体感できる得がたい経験になる。