エピソード
熊本市街の北東にある標高150メートルほどの里山。市民の散歩コースとして親しまれる身近な山だが、一帯には細川家ゆかりの菩提寺跡や歴代藩主の廟所があり、山麓には広大な墓地が広がる。つまりこの山は、熊本の人々が何百年も死者を送り、弔ってきた場所である。「白い影」「気配」といった噂がこの山に集まるのは、そうした土地の性格と無関係ではない。
語られる話は、夕暮れの山道で白い影とすれ違った、誰もいないのに背後に気配を感じた、墓地の近くで足音を聞いた、といった控えめなものが多い。派手な怪談ではなく「なんとなく居る気がする」型の噂が中心なのがこの山の特徴で、それがかえって地元で長く語り継がれてきた理由でもある。
現地は昼間なら遊歩道の整った気持ちのいい山で、配水池や展望所からは市街が一望できる。夜間は照明のない山道になり、足場も悪い。廟所や墓地は現役の祈りの場なので、肝試し目的で立ち入るのは論外である。夕方の散策で、里山と死者の眠る山が同居する熊本らしい風景を感じる場所だ。