エピソード
伊勢神宮の鬼門を守る山。山上の金剛證寺は「お伊勢参らば朝熊をかけよ、朝熊かけねば片参り」と歌われ、伊勢参宮とセットで登るべき山とされてきた。この寺の奥の院へ続く参道には、高さ数メートルの卒塔婆が林のように立ち並ぶ。伊勢志摩の人々は死者の供養にこの山へ卒塔婆を立てる「岳参り」の風習を守っており、朝熊山は今も現役の「死者の集まる山」なのである。
語られる話は、卒塔婆群の間で人影を見た、夜の伊勢志摩スカイラインで異変があった、山道で背後に気配を感じた、といったもの。巨大な卒塔婆が延々と続く奥の院参道の光景は、何も知らずに訪れた者を圧倒する迫力がある。
山上へは有料道路で登れ、展望台からは伊勢湾と志摩の海が一望できる。ここは恐怖の場所ではなく、伊勢の死生観が形になった祈りの山である。参拝の作法で、静かに歩きたい。