エピソード
木曽三川が集まる輪中の地に、堤防に沿って千本の松が連なる。この松原は江戸中期、幕府に命じられて木曽三川の治水工事を行った薩摩藩士たちが、完成を見届けて植えたものと伝わる。工事は難航を極め、多くの藩士が事故や病で亡くなり、責任を負って自ら命を絶った者も数多かった。総奉行の平田靱負も工事完了の直後に亡くなり、藩士たちを祀る治水神社が松原のたもとに立つ。
語られる話は、松原で羽織姿の人影を見た、夜の堤防ですすり泣きを聞いた、川面に灯が並んで流れていた、といったもの。ただしこの地の噂は恐怖よりも哀悼の色が濃く、地元では今も薩摩義士への感謝の祭りが続けられている。
現地は木曽三川公園に隣接する散策地で、展望タワーからは輪中と三川の雄大な景色が一望できる。遠い薩摩から来て この地に眠る人々の物語を知ってから歩くと、松原の風の音が違って聞こえるはずだ。